自分自身を耕す鍬

数日前 ノンフィクション作家杉原美津子さんが亡くなった、という。
34年前、東京新宿駅のバス放火事件で 80%のやけどを負い 生死の境をさまよって
何度もの手術を乗り越え 初めは不自由な体であったが その後日々の暮らしができるまで回復しそして 見事に生ききった人・・・・・・

この事件の時には ≪偶然報道カメラマンだった兄上がそばを通り 妹が熱傷を負っているのも知らず 撮影した、兄との関係はしばらくギクシャクした、  彼女が不倫中だったことがこの事故のため 母にばれてしまい しばらく母上との関係も悪化≫  などということを興味本位に知っていたが その後の彼女の活動については 知らなかったし 正直その事件のことも私の中では忘れてしまっていた。

新聞によると今年になってからNHKの ドキュメントでも放映されたらしいが 彼女は犯人を憎むこともせず 拘置所に行き 被告人とも話してきたとか。


図書館で本を借りて来た。
この7月に出版されたものである。




杉原さんは公判で見た被告の男を「かわいそう」と思ったそうである。
学校もろくに通えず、職を転々とする人生。
社会からさげすまれ それが男を犯罪に追い込んだのなら ≪自分も加害者である≫ と自問する。

80%もの やけどだから あちこちにケロイドができ 父上も母上も 「醜いから隠せ!」とまで言ったそうである。
病院に入院している時にはやさしくしてもらえたけれど いざ退院する、という時になったら 身近な人は「誰が面倒見る?」と とまどっているのが感じられた・・とも。

不倫していた男性の妻が癌で亡くなり 結局その男性と結婚し その彼は彼女を理解してくれたようだが その男性もストレスなどから後年は 認知症を発症し 彼女が介護することにもなった。

そして やけどの時の輸血が原因で 肝臓がんになり余命を宣告までされてしまったが それでも被告人を憎まない、で 被害者、加害者ということを考え続けた、そうで その意志の強さには びっくりするというか 感動するというか、適当な言葉がみあたらない。

体中のケロイドの痛みに耐えながら それでも被告人を憎まない、なんて・・・・・・

この本によると 何度も 公判に行き 拘置所に面会を求め 手紙を書き、 公判では被告人と目を合わせ 意思の疎通を図り・・・・ 

結局 被告人は拘置所で自死するが 杉原さんはそれに対してはものすごく怒りを感じたそう
「生きて罪を償ってほしかった・・・」と。
そこの部分だけは 凡人の私も理解できるような気がするが・・・・・・。

自分ともあまり年齢も違わない杉原さん。 
その事件のあとにも 10冊近い本も出版しているし やけどをしなかったら どういう人生だったか・・・・・

人間には 不条理な出来事がつきものだけれど それに対して 「被害者」として同情を得ようとすることもなく、 社会に対して すごいメッセージを残して 生ききった、すごい!

新聞には被害者としての人生を≪自身を耕す鍬≫として生ききった、と記されている。


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